概要
エミリ・ディキンスン(一八三〇—八六)は三十一歳の時に本格的な施策を決意して、批評家のヒギン寸に四編の詩を送って批評を求めた。彼女の死後、威光を編集して刊行したとき、彼は「最初の四編を受け取った時以来、ずっと深い感銘とある躊躇を抱いてきた」と述べている。「感銘」とは、その発想の大胆さであり、「躊躇」とは、その破格な詩風であった。
そこで、出版にあたり、ヒギンスンは彼女の大胆な韻律を伝統的な韻律に変え、比喩にも手を加えた。その結果、当時の詩壇に受け入れられて、「英語で書かれた最高の女性詩人」としてもてはやされた。そして、ながらくこの修正版が普及して翻訳されてきた。
だが、一九五五年、原作に忠実なジョンスン版が刊行され、私たちは本来の詩風を享受することが可能になった。この『完訳エミリ・ディキンスン詩集』はジョンスン版に改訂を加えた、新たな定本フランクリン版に準拠している。旧来の詩風から脱皮した、新鮮な現代詩人としてのエミリ・ディキンスンの全貌をあらためて知ることができるだろう。(「あとがき」より)