概要
環太平洋地域を中心に展開する環境にかかわる文学と文化について、テクスト・自然・社会との関係を考察する、エコクリティシズムの論文集。
アメリカ、台湾、ブラジル、イギリス、オーストラリアなど環太平洋をフィールドとする世界のエコクリティクにも呼び掛けて、太平洋を横断・縦断する文学を論じ、エコクリティシズムの重層性、新たな潮流を生み出す国際企画!
核兵器の製造・使用、原子力発電へと至る核問題、化学物質汚染、気候変動・地球温暖化、天然資源の枯渇や動植物相が晒されている絶滅の危機に直面する「環境の世紀」を多方面から論じる。
まえがき
トランスパシフィック・エコクリティシズムの航路を拓く
(伊藤詔子)
序——トランスパシフィックな想像力と経験のエコクリティシズム
(スコット・スロヴィック/城戸光世訳)
Ⅰ 太平洋を横断する語り手たち
1 閃光とゴースト——更新する〈ヒロシマナラティヴ〉
(伊藤詔子)
2 環太平洋の地図を紡ぐ足跡
——ナナオ サカキと文学的伝統
(塩田弘)
3 フォークナー、三島、莫の自然・文化・ジェンダーの表象
(クリストファー・リーガー/松岡信哉訳)
4 ディヴィッド・マス・マスモト、フード・ポルノ、食運動の政治学
(セレナ・チョー/水野敦子訳)
5 海を越えたエコモンスター——ゴトーの『カッパの子ども』における種とセクシュアリティの交錯
(岸野英美)
6 収容所をめぐる三つのテキスト——カレン・テイ・ヤマシタの『記憶への手紙』におけるポストコロニアルポリティックスの攪乱
(牧野理英)
Ⅱ 気候変動、エコディストピア、アクティヴィズム
7 気候の暴力、抵抗の精神——チャンネ・リー『その満潮の海に』とルイーズ・アードリック『生ける神の未来の家』
(マイケル・ゴーマン/松永京子訳)
8 気候変動の遅い暴力と新たなドリーミングの創出
——アレクシス・ライトの『スワン・ブック』にみる貧者の環境主義
(一谷智子)
9 人新世と向き合う演劇——マラゲクの『空を切る』
(ヘレン・ギルバート/一谷智子訳)
10 マーシャル諸島から太平洋を越えて
——キャシー・ジェトニル=キジナーとロバート・バークレーによる戦争・核/ミサイル実験・地球温暖化の表象
(小杉世)
11 極北の化学物質汚染——狩猟採集民の自然観を理解する
(林千恵子)
12 ブラジル文化における環境主義
——女性、インターネット、コーデル文学
(セリア・ボラ/吉田美津訳)
Ⅲ 環太平洋圏の核表象
13 クジラと原子炉——世界の捕鯨文学からの批評的視座
(湊圭史)
14 「ナガサキ」を語り直す
——スーザン・サザード『ナガサキ 核戦争後の人生』
(高田とも子)
15 終わりの後に
——ポストアポカリプス小説とトランスパシフィックな想像力
(松岡信哉)
16 ジョナサン・フランゼンの『ピューリティ』における核とリアリズム
(川村亜樹)
17 ダグラス・コープランド文学における閃光・爆発・きのこ雲
——世代論としての核表象からエネルギー問題の啓発へ
(荒木陽子)
18 オクトジラ、海を渡る——循環するウランの物語
(松永京子)
19 身体的フィールドワークと危険な芸術
——ピーター・ゴインと核の風景の制作
(シェリル・グロットフェルティ/伊藤詔子訳)