概要
アメリカ南部を代表するカソリック作家、フラナリー・オコナー(1925-64)。
彼女の文学世界は、なぜグロテスクで暴力的な光景に満ちているのか。
暴力性は、どのように神の倫理と結びつき、神の恩寵の瞬間を迎えるのか。
暴力と恩寵が混在したオコナーの文学/神学世界において、どのように登場人物の主体性が奪われ、神の啓示の前で受動的な存在になるのか、具体的な作品分析をとおして、オコナー文学が内包する倫理に着目する。
目次
序章 文学と神学の狭間で
受動性と主体/オコナー文学と新批評
暴力、受動性、レヴィナス/日本のオコナー研究と本書の位置づけ
第I部 秘義における物質と知覚
第1章 彷徨の身体
──『賢い血』と不安定な神の表象
神聖と冒瀆/浮遊する眼差しとグロテスクな形象
故郷の喪失と不気味なもの/善としての彷徨
第2章 物質と秘跡のリアリティ
──「グリーンリーフ」と「川」にみられる文学の美学と創造世界の表象
秘跡と受肉の芸術/リアリティと知覚
「グリーンリーフ」と「川」におけるリアリティ
人間と物質の類似
第II部 受動性という倫理──他者の歓待と神の恩寵
第3章 倫理、暴力、非在
──「善人はなかなかいない」と「善良な田舎者」における善と他者
経験と倫理/同一性の記号としての「善」
暴力、隠蔽、顕在
第4章 アクチュアリティ、グロテスク、「パーカーの背中」
──行為、融合、再創造
グロテスクな創造/行為と再創造
暴力、受動性、融合
第Ⅲ部 オコナーの終末的光景──想像力、時間、現実性
第5章 不可解な黒さと虚構の力学
──「作り物の黒人」と「高く昇って一点へ」の差異と終わりの意識
黒さ、原罪、人種/黒さと神の恩寵/本物の黒人と作り物の黒人
贖罪の時間、虚構、現実
第6章 故郷、煉獄、飛翔
──「永く続く悪寒」における神の降臨と時間の詩学
煉獄という過程/境界侵犯への憧れ、あるいは煉獄からの離脱
供犠、イメージ、飛翔
アズベリー・フォックス、フラナリー・オコナー、進化の贖罪
第Ⅳ部 共同体/国家における政治と宗教
第7章 農園から共同体へ
──「強制追放者」におけるアイデンティティの構築と崩壊
戦争、死、アイデンティティ/南部の労働者からアメリカの市民へ
農園主から南部人へ/一時の共同体、無限の共同体
第8章 生の政治と死の宗教
──『激しく攻める者はこれを奪う』
公的なアメリカと私的な南部/生の享受と死の洗礼
アメリカの市民宗教、ターウォーターのキリスト教
第9章 偽善と暴力の相補
──「奴隷解放宣言」と「高く昇って一点へ」
奴隷解放宣言、神話的暴力、神的暴力/オコナーの曖昧な人種態度
偽善という神話的暴力が生み出すもの
計測可能な正義の危険性