概要
これが、『ロリータ』の内幕だ——
新大陸に移住後、『ロリータ』によってスキャンダラスな形で知られたナボコフは、いかにアメリカの大作家へと上りつめたのか。芸術家、文学者へと意図的に自己イメージを操作しながら、亡命者から「世界文学」への道程を歩んでいった作家の姿を、本邦初公開となる膨大な新資料を通じて描きだし、従来のナボコフ像を一新する。図版多数。
目次
序 章 ナボコフと読者たち(オーディエンス)
1 ナボコフ、アメリカ上陸/2 新天地でのロシア語活動/3 「ロシア詩の夕べ」/
4 『ロリータ』以後/5 ケンブリッジ凱旋/6 各章について/7 亡命者の自画像
第一章 亡命の傷——アメリカのロシアで
1 亡命、二言語使用、翻訳/2 亡命文学史上の「V・シーリン」/3 亡命者たちの
英語作家ナボコフ評/4 アメリカのなかのロシアで/5 プニンたち/6 ハーヴァー
ド・ヤードの青い芝生/7 「『ロリータ』と題する書物について」は誰のために書かれ
たか/8 『ドクトル・ジバコ』の波紋/9 優雅な生活が最高の復讐である/10 賞と
名声と/11 自己翻訳の果て/12 「翻訳」という仮面/13 ナボコフは世界文学か?/
14 亡命の神話
第二章 ナボコフとロフリン——アメリカ・デビューとモダニズム出版社
1 アメリカ作家になる方法/2 ただ愛のために/3 パウンドの「啓示」とニューディ
レクションズ誕生/4 セバスチャン・ナイト——近代世界の殉教者として/5 ロフリン
の歓迎/6 ニューディレクションズの販売戦略のなかで/7 ボーン・モダン——アル
ヴィン・ラスティング/8 バニー&ヴォロージャ vs 「あのJのやつ」/9 文学というビジ
ネス/10 送りつけられた「時限爆弾」/11 「時限爆弾」の爆発/12 書きかえられた
『セバスチャン・ナイト』/13 フェンシングの親善試合/14 出版界の変革の波にさら
されて/15 消えた風景/16 「ニューディレクションズの作家」から「アメリカの作家」へ
第三章 注釈のなかのナボコフ——『エヴゲーニイ・オネーギン』訳注から自伝へ
1 『エヴゲーニイ・オネーギン』翻訳と注釈/2 埋めこまれた記憶/3 自己言及癖のあ
る語り手/4 注釈——第四章十九連四−六行/5 決闘の謎/6 三冊の「回想記/伝
記」/7 二度はゆけぬ場所の地図/8 記憶の索引(インデックス)/9 「眼鏡」から「貝
のかたちをしたシガレットケース」へ/10 バトヴォの森で/11 『記憶よ、語れ』第三章二
節/12 「回想」から「伝記」へ
第四章 フィルムのなかのナボコフ——ファインダー越しに見た自画像
1 被写体としてのナボコフ/2 「捕虫網をもった芸術家」/3 「愛妻家ナボコフ」/4 ぼ
く自身のための広告/5 そしてアイコンへ/6 ナボコフ朝時代/7 「変人」から「セレブ」
へ/8 自己移植の時代錯誤(アナクロニズム)/9 鏡の国の囚われ人
第五章 日本文学のなかのナボコフ——戦後日本のシャドーキャノン
1 円城塔——蝶に導かれて/2 ナボコフ日本上陸とその周辺/3 丸谷才一 ——モダ
ニズムと私小説批判/4 「樹影譚」——「捏造」された「起源」/5 大江健三郎——晩年
の傾倒/6 『美しいアナベル・リイ』——『ロリータ』を書きかえる/7 隠匿された「告白」、
「悪霊」憑きのテクスト/8 「マイクロキャノン」としての私小説/9 性と文学——谷崎/
川端/ナボコフ/10 ソフト・パワー戦略の掌中のなかで/11 『ロリータ』を超えて
第六章 カタログのなかのナボコフ——正典化、死後出版、オークション
1 「欲望」の対象としての『ロリータ』/2 世界一高価な『ロリータ』/3 正典化されるナボ
コフ/4 売り払われる遺産/5 ドミトリイ・ナボコフ——父の代理人/6 ヴェラの蝶/
7 ドミトリイの蝶/8 『ローラのオリジナル』のオリジナル/9 刊行ラッシュ/10 在庫一
掃セール/11 息子の死/12 プライヴェートからパブリックへ
おわりに